東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3206号 判決
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〔判決理由〕一、(一) (免責の成否)
訴外丹野が原告らの乗つた加害車の走行中に急制動措置をとったことは当時者間に争いはなく、<証拠>と<証拠>間には、丹野が急制動をかけるに至つた動機、その時の加害車の速度等についての供述内容に顕著な食い違いがあるが、少くとも、加害車に乗り込んだ朴および原告らが丹野に告げた行先が乗車地点から一キロ余しか離れていない地点であつたこと、その際丹野は原告らに対して、別の老人を乗せる積りで停車したもので原告らのために停車したのでないと云つたこと、それが原因で丹野と原告らの間に口論が始つたこと、原告らは走り始めた丹野に対して交番に車をつけよと求めたこと、その後に丹野が急制動の措置に出たこと、走行中、終始丹野と朴や原告らの間に何らかの口論が交されていたことについては両者の供述は概略合致する。そこで、右事実を基礎として<証拠>を総合すると、丹野は原告らを加害車に乗せた後、原告らに行先を告げられるや、別の老人を乗せる積りだつたといつて近距離客の乗車を嫌がる態度をとつたところ、朴や原告らは「乗車拒否をするのか」「交番に車をつけろ」などといつて丹野をののしり、両者の間には嫌悪な空気を生じ、相互に口ぎたなく口論の末、朴は後部座席から運転中の丹野の背部に手をかけるに至り、原告らの態度に憤激した丹野は、加害車が相当の速度に加速したにかかわらず、突然急制動の措置をとつて衝撃を与え、原告らに応酬したものと認められ、<証拠判断・略>他に右認定を動かすに足りる証拠はない。
してみると、丹野のとつた急制動措置には、ほとんど加害の故意とも評価しうるものが存したと認められ、同人に過失がなかつたとする被告の免責の主張は到底理由がない。
(二) (過失相殺)
右のとおり、本件事故は、訴外丹野の故意にとつたともみられる急制動措置によつて生じたものと認められるが、一方、朴および原告らにおいても自己の乗車する車両走行中、運転手に悪口をあびせかけ、果ては手をかけるなどの行為に及んだことが認められるから、本件事故発生については、訴外丹野の右粗暴な運転態度に誘因を与えた過失があつたものとみるべきである。そして、<証拠>によれば、同人が原告ら姉妹と共同生活を営む実父であることが認められるから、民法七二二条二項の適用上被害者たる原告らの側に属するものとしてその過失を斟酌しうるものというべく本件では、原告らの損害算定に当り、朴および原告らの前記過失を斟酌し、少くとも二割程度の過失相殺を適用すべき事案というべきである。
(二) 治療費 五二万二九五二円
<証拠>によると右各病院における入通院治療費として合計六五万三六九一円を要したことが認められるが、前記過失を斟酌すると右金額が相当である。
なお、同原告の請求する鍼術療法費用、電気式物理療法費用、マッサージ費については、いずれも右療法を受けるについての医師の指示あるいは同原告の傷害に適切な療法であるとの点を認めさせるに足りる証拠はなく、むしろ、<証拠>に照らすと、いわゆる過剰診療との疑念を強くいだかしめられるものがあり、また、温泉療養費についても、<証拠>には温泉療法を適当とする旨の記載はあるが、右は昭和四三年一月一六日付で、しかも既に当該傷害が治癒したとする診断書に付記されたものであること、温泉への宿泊がいずれも右診断書の六か月以後に行われていることその余の原告二名分についても<証拠>には同月一八日付で同様、傷害が治癒したとする診断書に同じ文言が付記されていることなどを考慮すると、いずれも当該傷害治療のため医師が積極的にその必要性を認めて記載したものとは認められず、その他これが治療のため必要であつたと認めるに足る証拠はない。従つて、右各費用はいずれも本件事故と相当因果関係のある損害とは認め難い。(倉田卓次 浜崎恭生 鷺岡康雄)